教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 敬ちゃんは小さくため息をつくと、「これはひとりごとだが」と呟いた。

「桐島は明日から出社する」
「け、敬ちゃん」
「あとは林ちゃんの判断に任せる。ただし、お前はそんなヤツじゃないと知っているが……たとえ思いどおりにことが運ばなくても、絶対に無理強いはするなよ」
「無理強い?」
「絶対に桐島を傷つけないでくれ」
「あ、あ、あ――」

 思いもしなかったひとことに、言葉がうまく出てこない。

 失恋なんて考えたくもないものの、だからといって彼女を追いつめるのはもっと嫌だ。まして傷つけるなんて論外だ。

「当たり前だろ!」

 俺が語気を強めると、敬ちゃんは安心したように頷いた。

「まあ、座れよ。コーヒーでも飲もう」

 どうやら何か話したいことがあるらしい。俺は言われるまま近くのソファに腰を下ろした。
 すると敬ちゃんはやたらおしゃれなコーヒーメーカーから、湯気の立つコーヒーを紙カップに注いでくれた。

「ほら」
「どうも」
「これから話すことも……俺のひとりごとだと思ってくれ。たぶん桐島は誰にも言ってないと思うが、お前には知っていてほしい」

 いつになく重苦しい声に、俺は思わず背筋を伸ばす。
< 90 / 128 >

この作品をシェア

pagetop