教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「あいつが大学二年の時の話だ。当時はテニスのサークルに入っていて、俺はもう卒業していたが、コーチとしてたまたま呼ばれていたんだ。桐島は人見知りするし、目立つタイプじゃないが、かわいい子だったよ。男子の間では、けっこう人気もあった」
「う」

 俺の右頬がピクリと引きつった。

 学生時代の亜美さんに会った敬ちゃんがうらやましかったし、 「人気」という単語にもつい反応してしまった。
 慌てて「落ち着け」と自分に言い聞かせる。問題は、そこじゃない。

 敬ちゃんによると、その事件は夏休みの合宿中に起きたそうだ。

「桐島はひとりで散歩するのが好きだ」
「知ってる」
「へえ」

 驚いたように眉を上げた後、敬ちゃんは淡々と続けた。

「だから毎朝早起きして、朝食前に出かけていたんだ。他のみんなはけっこうギリギリまで寝ていたけどな」

 五日間続く夏合宿の最終日、亜美はいつものように早朝の散歩に出かけた。
 コースはほぼ決まっていたようだが、それがまずかったという。

「その時の四年に、彼女に気がある男がいてさ。田島っていうんだが、桐島を二、三回デートに誘って、いつも断られていたらしい。ふつうはそこであきらめるだろ? だけど田島はけっこう男前で、金持ちのボンボンだし、女子にもててもいたんだよ。だからかなりプライドが高くて、何がなんでも桐島を落とすと決めたみたいなんだ」
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