かけて、其れ切り
 いつもは一緒に帰る、幼なじみで同級生の直子ちゃんが、今日は体調を崩して早退してしまった。
 お隣の三年二組の教室に行って、初めてそのことを知った私は、仕方なく一人で帰ることにした。

 いつもは直子ちゃんと談笑しながら帰る道のりを、トボトボと歩く。
 あんまりにも寂しかったので、ランドセルに取り付けたお気に入りのウサギのマスコットを外して、手に握りしめる。

 家まであとちょっとのところで、ふと見慣れない路地の存在に気が付いた。
(こんな道、あったっけ?)
 記憶を手繰(たぐ)り寄せてみても、全然ピンとこない……そんな景色。
(いつもはお喋りに夢中で気づかなかっただけかも?)
 九月ともなれば、幾分涼しくなってきて、真夏の日みたいに水を求めてあちこち寄り道しなくなる。

 それに、今日は一人ぼっち……。

 私はその小道に興味を覚えつつも、立ち止まって逡巡(しゅんじゅん)する。
(行ってみる? それとも素通りする――?)
 恐らく後者が賢明だ。

 そう思いつつも、後ろ髪を引かれる思いでそこを通り過ぎようとしたら、小路の先のほうに、外国にあったら似合いそうな雰囲気の、袖看板(そでかんばん)が見えた。
 目を凝らしてみると、先日習ったばかりのローマ字が見えて――。

 私はその看板に引っ張られるように、通学路からほんのちょっぴり外れたそこへ、足を踏み入れていた。

 近くまで行って、看板を見上げると、
「アンティクエ・ショップ ゆげんや?」
 そこに書かれた文字を、声に出して読んでみる。でも発してみたそれは、何だかしっくりこなかった。
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