私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。
そわそわした様子のお母さんの視線をひしひしと感じながら、私は優星くんと共に玄関を出た。


「朝起きて支度してたら、ふと『行こう』って思い立っちゃってさ。
ごめん、驚かせたよね?」

「びっくりしたよ!
お母さん、優星くんを見て、すごく慌ててたよ。
意外とミーハーなんだなぁって、笑っちゃった」

「……よかった」

「え?」

「深月、笑ってるから」


気遣わしげに、優しい笑みを見せる優星くん。


「真昼もすごく心配してたよ。
あいつはあいつで、月曜はちょっと元気なかったけど」

「そうなんだ……大丈夫?」

「うん。翌朝にはケロッとしてた。
でも『エレアル』描いてる漫画家のSNS見て、怒ってたよ。
『なんで炎上してるの!? ひどい!』って」

「あぁ……私も見た。漫画家さんって、大変だね」

「でも、漫画家……紅々葉さんだっけ?
その人が、ファンに丁寧に対応して、少しは収まったみたいだけどね」

「そっか……。うん、先生は悪くないよ」

『エレアル』の話は、それで終わった。

学校に着くまで、優星くんは、最近ハマっている動画や、見学に行った部活動のことなど、『エレアル』と関係ない話をして、私の気を紛らわせてくれた。
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