優しくない同期の甘いささやき
自分の席を通りすぎて、熊野の場所まで行く。彼は課長との話がちょうど終わったところだった。

自分の席に向かおうとする熊野を引き止める。


「熊野、ありがとう。あとさ……」

「ん? なんだ?」

「今日の夜、一緒にご飯食べようよ。そっち、行きたい」

「は? えっ、朝から何を……」


熊野は動揺して周囲を気にした。彼にしては、珍しい反応だ。

周りには聞こえないくらいの声で話したので、誰にも聞かれていない。

熊野は安堵した様子で、私に向きなおる。


「来いよ」

「うん。じゃ」


私が右手をあげると、熊野も右手をあげてタッチした。

さあ、今日も頑張ろう!

それで、夜は熊野と……ご飯食べよう。

うん、ご飯食べるだけだ。

たぶんね。

姉のゴタゴタがようやく落ち着いて、熊野との時間をやっと取れるようになった。

付き合うことになってから、三週間が過ぎていた。この三週間、熊野と会社以外では会わなかった。

彼はわが家の状況を理解して、待っていてくれた。

落ち着いたら、いつでもいいから言ってと言われていたけど、そのタイミングをつかむのが難しくて、今になった。
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