優しくない同期の甘いささやき
スマホを操作していた彼は、パソコンを閉じた私を呼んだ。

食事する場所を探していたらしく、どこかの居酒屋が映っている画面を見せてきた。


「ここにする?」

「そこ、行きたいと思ってた。行こう」


彼が提案したのは、会社の裏通りにあるアジアン居酒屋だった。

先輩社員から美味しいと聞いていた店で、今度行こうと知奈と話していた店だ。そういえば、熊野にも話していた。

オフィスビルから店まで歩きながら、熊野に訊いた。


「私が行きたいと言ってたから、そこにしたの?」

「ああ、まあな。俺は何でも良かったから」

「ありがとね!」


元気に返事をした。軽やかに歩く私の腕を熊野が引っ張った。


「また水溜まりに入るぞ。気をつけて」


雨はやんでいたが、水溜まりはまだあった、私はそこに足を入れそうになっていた。

熊野のおかげで濡れなかった。


「わわっ、暗くてよく見えなかったよ。助かったー」

「繋いでいれば、平気だろう」


熊野は私の手をしっかりと握った。彼の手は大きくて、安心感がある。
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