優しくない同期の甘いささやき
居酒屋は混んでいて、私たちはカウンター席に並んで座った。

生春巻きを食べる熊野の横顔がオレンジ色の灯りによって、優しそうに見える。

不思議だ。

熊野が輝いて見えたり、優しそうに見えたりしている。

彼が「美緒」と呼ぶ自分の名前が特別なものに思えた。呼ばれた私は「なに?」と首を傾げて微笑む。

やばい……少しでもかわいく見せようとしてしまった。

熊野も緩んだ顔で笑う。


「酔ったのか?」

「ううん、酔ってないよ」


彼は私の頭に手を置く。本当に頭を撫でるの好きだな。


「かわいい顔して笑うなよ。困るだろ」

「何が困るの?」

「今夜、帰したくなくなるってこと」

「ええっ?」


熊野は照れて、グラスに半分残っていたビールをグイッと一気に飲んだ。おかわりを頼んでから、横目で私を見る。


「これからうちに来るんだろ? どういう意味で来たいと言った?」

「どういう意味って……最近ゆっくり話していなかったなと思ってね。でも考えたら、今から行くと遅くなるよね。今日はやめようかな」

「は? 何言ってるんだよ?」
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