優しくない同期の甘いささやき
「逃げるなよ」

「逃げないけど……ちょっとね」


苦笑しながら、体を後方へとそらす。その時、お尻の半分が浮いた。


「美緒、危ない! あ……」

「えっ……きゃあ!」


熊野の伸ばした手は空を切り、私は無様にベッドから落ちた。


「いたた……」

「大丈夫か? まったくバカだな……ほら」


熊野に支えられて、ベッドに戻された。落ちた時に痛めた肘をさすっていると、彼は心配そうに顔を歪める。


「病院、行くか?」

「ううん、平気だよ。病院行くほどの痛みじゃないから」

「そうか? 痛みがひどくなったら言えよ」

「うん……」


迷惑かけてばかりいる。

またもやしょんぼりする私の頭を熊野は、ぐしゃぐしゃに撫でた。

目線だけを彼に向ける。


「迫って、悪かったな」

「えっ?」

「落ち込む美緒がおもしろくて、つい意地悪した」

「意地悪しないでよ」


私は口を尖らせた。こっちは本気で落ち込んでいるというのに、それをおもしろがるなんてひどい。

熊野は「仕方ないだろ」と拗ねた。
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