優しくない同期の甘いささやき
母に呼びとめられて、着替えるためにリビングから出ようとしていた父はビクッと肩を揺らした。


「俺は、別に会いたくない」

「嘘、言わないの。どんな男なんだとブツブツ言ってたじゃないのよ。会ってみないとわからないなーって」

「言ったが、会いたいとは言ってない」

「あらー? 会いたいと言ってるように思えたけどねー」


軽く言い合いになる両親の間に、割って入った。


「あのね、いつか会ってほしいなと思ってるけど、今すぐじゃないから。お父さんが会いたいと思ったときで、いいからね」


父は、気まずそうな顔で持っていたカバンを床に置いた。


「いや、別に会いたくないと言っていない」

「うん、わかってる」

「まあ、その……どうしても会ってほしいと言うなら、会ってもいいけどな」


今だ!

私は、父の目をしっかりと見た。


「じゃあ、会って! 彼がどうしても会いたいと言うの」


父は顔をひきつらせた。


「ああ、いいよ。いつでも連れておいで」


母と姉がクスクス笑った。

安堵した私は、熊野に報告した。
< 134 / 172 >

この作品をシェア

pagetop