優しくない同期の甘いささやき
父は穏やかな笑みを浮かべた。


「いつまでもそんなところで話していないで、どうぞあがって」


いつもの父らしい態度だ。私は、ひそかに胸を撫で下ろした。

熊野は「お邪魔します」と靴を脱いだ。

リビングには姉だけがいた。姉は父に向かって、苦笑する。


「お父さんったら、いきなり出ていくんだもの。そんなにも早く会いたかったの?」

「だってな、なかなか入ってこないから気になってな」


父は気恥ずかしそうに頬の辺りをさすった。

熊野と私は並んで座り、反対側に両親が座った。姉はダイニングセットの椅子を近くに持ってきて、腰をおろした。

テーブルにはコーヒーとクッキー、それに熊野が持ってきたチョコレートの箱が置かれている。

父がコーヒーをひと口飲んでテーブルにカップ戻すと、熊野が口を開いた。リビングに入ってからの彼はずっと緊張した面持ちだった。

その緊張が私にも伝わっていて、私は静かにしつつも彼の様子を窺っていた。

挨拶をしたいと言っていたが、具体的に何を言うのが予想できていない。 

実のところ、何を言うのか不安だった。  
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