優しくない同期の甘いささやき
熊野の重ねていた手の指先がが微かに動く。


「聞いていた?」

「あ、うん」

「返事してよ?」  

「うん……私も、ずっとそばにいたい」


母が「きゃあー」と手をパチパチ叩いた。ハッとわれに返って、母と父を見た。

ほんの少しの間だが、熊野とふたりだけの世界にいるように思えた。自分が物語のヒロインになった気分だった。

すごく熊野が輝いていたし、抱きつきたくなっていた。

母の興奮した声は、現実の世界に戻してくれる。


「なんて素敵なプロポーズ! 私なら大喜びしちゃうわー」


本人以上に浮かれる母を見て、父と姉が笑う。

熊野と私も笑みを浮かべた。


「美緒、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう。家族の前で言われるとは思わなかったけど、うれしい」


熊野はあらためて両親に顔を向けた。


「美緒さんと結婚させてください。ふたりで寄り添って歩いていきたいと思います。お願いします」

「私からもお願いします」


彼と共に頭を下げた。結婚は私たちふたりの問題だから……どんな時でも彼の気持ちに寄り添っていたい。


「こちらこそ美緒をよろしくお願いします」
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