優しくない同期の甘いささやき
「いいえ! 全然イヤじゃないですよ。とってもうれしいです!」


力強く答えた。熊野がいなくて黒瀬さんとふたりだけで過ごせるなんて、万歳だ。浮かれてしまう。

目を輝かせる私の腕を自分のもとへと、黒瀬さんが引き寄せた。前のめりになった私は、接近する彼に心臓がドキンと跳ねる。


「加納ちゃん、かわいい。俺もうれしいよ」


耳元で囁かれた言葉は想定外のものであって、心臓が止まりそうになった。とんでもない破壊力だ。

そんな私の状態を知らない黒瀬さんは、柔和な笑みを浮かべて「あとでね」と片手をあげて去っていく。

その様子をぼんやりと眺めてから、今身に起こったことを整理する。

か、かわいい?

かわいいって、言われちゃった。

あとでとは?

あとで何が起こるの?

どうしましょう?

一応会議室を出て、自分のデスクに戻ったが、上の空状態の私だった。

熊野に話しかけられるまで、私の意識は遥か遠くへと飛んでいた。


「大丈夫か? 顔が変になってるぞ」

「へ?」


熊野の指摘に両手で頬を押したり、引っ張ったりしてみる。変な顔とは、どんな顔だ?
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