優しくない同期の甘いささやき
熊野の大きな手が私の頭に乗り、上から顔を覗き込まれた。

近い距離に思わず息を呑む。熊野のこういった心を見透かそうとする目が苦手だ。


「何があった? 話してみろよ」

「何もないよ。会議で疲れただけ」

「本当か?」

「うん、ほんと、ほんと」


疑いのまなざしを向けられて、怯みそうになる。でも、黒瀬さんとのことは、内緒にしたい。

特に熊野には。


「なら、いいけど」

「うん、平気よ。いつも通りに元気だからね」

「ふーん……今夜、肉食いに行くか?」

「へ? 今夜? ダメだよ」


たぶん熊野は私に元気を与えようと焼肉屋に行こうと言った。焼肉は魅力的で食べたくなるが、今夜はそんなことに惑わされないくらいのもっともっと魅力的な予定が待っている。


「何でダメなんだ?」

「他の予定があるから」

「どんな予定? 言ってみろよ」

「いや、あのね、熊野には関係のない予定だから」


どうして熊野に言わないといけないのよ?

内緒にされたのが気に入らないのか、熊野はじろりと睨んだ。目つきがよろしくないですよ……。
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