優しくない同期の甘いささやき
優しいのだか、優しくないのだか以前はよくわからなかったけど、今は優しいとわかる。

厳しそうに見せるのが、彼の愛情表現だったんだなと……。

資料を確認していると「美緒ちゃーん」と知奈が来た。


「はい、まる秘のよ」

「ああー、ありがとう」


私は祥太郎と先週から一緒に暮らしている。

知奈を通して、会社に住所変更届を提出した。祥太郎も同じだ。同じ住所なので、知奈にこっそり手続きをしてもらったのだ。

結婚ではなくて、同棲なのであまり人には知られたくない。悪いことをしているのではないが、好奇の目で見られないためだ。

噂の的になることを、私も祥太郎も好んでいない。

知らないうちに、私たちの交際は知れ渡っていたけれど。

知奈は身を寄せて、ひそひそ声で話す。


「どう? 同棲」

「普通よ」

「あとで、詳しく聞かせてね」

「そうね、あとでね」


知奈は軽い足取りで、他の人にも書類を渡していた。配り終わって、また私のところに来る。

「じゃあね」と手を振って、総務部に戻っていく知奈の後ろ姿に思う。

あとでとは、いつ?

話す時間がないけど、どう話そうかな?
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