優しくない同期の甘いささやき
「知奈だけ先にいるのかな?」

「はい。今、案内してもらうところでした」

「ちょうど良かった。一緒に入れますね」


私は頷きながら、知奈の彼氏の隣にいた男性に軽く頭を下げた。男性は「どうも」とにこやかに返す。

私たちの方を見ている熊野が、視界の端に入っていた。

私の用事がわかったに違いない。

熊野を見ないで、案内する店員の後ろを歩いていく。

止められないうちに行かなくては!

しかし、行く手を阻まれてしまった。

熊野は素早く私の前に、回り込んできたのだった。

思いがけない早わざに目が点になった。

いつの間に、来た?

私の後ろで、知奈の彼氏とその先輩だという男性も動きを止めた。先を歩いていた店員も後から私たちが来ないのを気が付いたようで、振り返る。

全員が動きを止めていたその時、知奈が登場した。


「あ、来た! みんな一緒……なんで、熊野がいるの?」


知奈が驚くのは当然だ。熊野を呼んでいない。

熊野は知奈を一瞥した。知奈の顔がひきつる。


「福田、俺も呼べと言ったよな?」

「言われたけど、うんとは返事してないよ。マジで付いてきたの?」
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