優しくない同期の甘いささやき
知奈は開き直ったように答えた。


「付いてきたわけじゃない。たまたまいたんだ」

「たまたま? 美緒ちゃん、本当に?」


私は肩をすくめた。

たまたまと言えば、たまたまではある。でも、なにかを察していたのかもしれない。

店前までと言ったのに入ってきたのは、熊野の勘だったのか?

なにか匂ったのかも。

店員は知奈が現れたからなのか、どこかに行った。知奈の彼氏が不思議そうに熊野を見た。


「この方は、知奈たちの知り合い?」

「私たちの同期の、熊野くん」


知奈が答えると、彼氏はスーツの上着から出した名刺を熊野に渡す。


「いつも知奈がお世話になっています。田沢(たざわ)と言います。こちらは同じ会社の先輩で……」


熊野は名乗った田沢さんからの名刺を受け取ったが、続けようとする言葉を遮った。


「そちらの方の紹介は、いらないです。福田さんには、日頃から仕事でお世話になっています」


丁寧に話してはいるが、失礼な態度だ。私と知奈は顔を見合わせた。
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