優しくない同期の甘いささやき
「あんなとこって、お店に失礼よ。あそこのミートソース、美味しいよね」

「確かに美味しいけど」

「行こう、行こう! お腹ペコペコー」


交差点に向かって、熊野の背中を押した。「押すなよ」と言いながら、熊野は笑う。

不穏だった空気がなくなり、内心ホッとした。

熊野とはくだらないことを言い合いながらも、笑っていたい。

居酒屋での自分勝手な行動にはムカついたけど、もともと乗り気ではなかった食事会だった。気を遣わずに食事できる方が楽しい。


パスタを食べ終えた私たちはレストランを出て、駅へと歩いた。

私たちは食べながら、仕事や会社の人の話をした。居酒屋でのことには、触れていない。

駅に着いて、熊野が「加納」と呼んだ。彼を見上げた。


「まだ時間ある?」


時刻は20時を過ぎたところだった。ここから自宅までは30分くらいだ。明日は休みだから、遅くなっても問題はない。


「あるけど」

「もう少し話をしたい」

「いいよ」


近くのコーヒーショップに入った。二階にあがり、窓に面した席に並んで座る。

窓の下には、行き交う人たちが見えた。
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