優しくない同期の甘いささやき
カップを両手で包み込んで、熊野に視線を向けた。彼はテーブルの上で指を絡めて、外をぼんやりと眺めていた。

話がしたいと言ったのに、ひと言も発していない。私は、手持ちぶさたでスマホを出した。

誰からもメッセージは来ていない。今夜は知奈たちとの食事会の予定だったから、家族には遅くなると伝えてある。

急ぐことはない。熊野が話し出すまで、待とう。

週末、何をしようかな。

そろそろ夏服が欲しい。

買い物に行こうかな。


「 加納。何度も言ってたけど」

「うん?」


やっと話を始めた。頬杖をついて、しっかりと顔を見る。

熊野は姿勢を正した。

深刻な話なのかな?

でも、何度も話した内容みたいに言った。今日の居酒屋からの流れだと、もしかして告白?とも思った。

違う話なのかも。


「俺と付き合ってほしい」

「えっ?」


何度か「俺にしろ」と言われていた。真剣に受け止めたことはなかったが、今は真剣に受け止めなくてはいけないように思える。

熊野の頬は、ほんのり赤みを帯びていた。額に手を当て、俯いて……目線だけがこちらに向く。

どくんと心臓が大きく波打った。
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