優しくない同期の甘いささやき
予想外だったのか、熊野は目を丸くした。私は軽く睨む。


「そうよ。ダメなの?」

「ダメじゃないけど……この辺にあったかな……」


繋いでいた手を離して、熊野はスマホで検索を始めた。その顔には焦りの色がにじみ出ている。

こんなに表情をころころ変える人だっただろうか。

いつも偉そうにしているか、嫌そうにしているかだった。

でも、思い出せば……優しいまなざしで見られていることもあった。喜びをあらわすこともあった。

私が気にしていなかっただけだ。


「んー、隣の駅に行けば、良さそうな寿司屋あるな。ここだけど、どう?」


スマホの画面を私に見せてきた。体を寄せて、覗き込む。

良さそうではあるが、高そうでもある。私たちの給料はほぼ同じだ。

私は家族と住んでいるけれど、熊野は一人で暮らしている。彼の懐具合が心配になった。


「あー、やっぱりパスタが食べたいな」

「は?」

「あそこにしようよ。すぐ食べれる」


道の反対側にある洋食レストランを指さした。昼休みによく利用している店だ。


「あんなとこで、いいのか?」
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