500文字恋愛小説
№98 会いに行くから
「向こう着いたら連絡する」

駅のホーム、俯いた顔は上げられない。

「毎日、メッセ送るし、そんなに落ち込むことないだろ。
俺だって嫌なんだし」

彼のため息が頭上に落ちてきて、びくりと身体が震えた。
会社の命令だから仕方ないのはわかっている。
ただ私は――こんな泣きはらした顔を彼に見られ、心配させるのが嫌なのだ。

「じゃあ、行くな」

アナウンスが電車の到着を告げる。
このままでは彼は、誤解したまま行ってしまう。

「会いに行くから」

真っ直ぐに彼の顔を見て言う。
今日初めて、彼と目が合った。
眼鏡の奥の目は真っ赤になっている。
ああ、そうか。
強がっていても彼も同じだったんだ。

「俺も会いに来る」

彼は笑顔で、電車に乗っていった。
< 98 / 103 >

この作品をシェア

pagetop