8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

 ジャネットに与えられた客室は、サロン部屋を挟んで反対側にあり、話こそまだしていないが、数名の侍女を従えて部屋に入っていく姿を、エリオットも目撃した。
 動揺したのはローランドの方だ。

「エリオット様……!」
「落ち着いて。ローランド。僕は義兄上から直接は聞いていない。それに、もし噂が本当だとしても、仕方ないんじゃないかな。オズボーン王国は大国だよ。現王は五人も側妃がおられる。オスニエル様が側妃を娶られても文句は言えないよ。姉上を正妃にしただけでも、十分厚遇されているとは思わない?」
「それは、……そうですが」
「なんにせよ。こちらが非難する話ではないと僕は思う」

 心優しいエリオットだが、やはり国王となるべく教育を受けているのだ。感情に流されるようで流されない。腹の中でどう思っているのかを、表立って出すこともなかった。
 ローランドも、長年王族付きの護衛騎士をしているのだから理解はできる。が、フィオナを心配する気持ちも消せない。

 フィオナは昔から、愛情を求めていたのだ。子供の頃、父王の視察に半ば無理やりついて行ったのも、かまってもらいたいからだろう。
 一国の姫として生まれたフィオナは、エリオットのように冷静に事実を受け止める頭は、もちろん持っている。だから、わがままを言うことはないだろう。しかし、彼女の心は純粋に、誰かひとりに愛され続けることを望んでいるのだ。

「……フィオナ様に会いに行きませんか?」

 いてもたってもいられぬ心地でローランドが言うと、エリオットは静かに首を振った。

「ローランド。義兄上が戻ってこられた以上は、ふらふらと会いに行くわけにはいかないよ。姉上は、もう大国の正妃なのだからね」

 それさえもエリオットに止められ、ローランドは唇を噛みしめた。
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