王子の盲愛
「理世!!」

「え?明文くん?和可子さん!」
沖津の紹介したい人とは、明文のことだった。

王弥の雰囲気が、圧迫されていく。

「やっと会えた!和可子とは会ったのに、俺とは会ってくんないんだもん!傷つくなぁー」
そう言って、ごく自然に理世の頭に触れる明文。
実は、旅行の時に送られてきたメッセージには“会えない”と返事をしていたのだ。

それは王弥が“やだ!僕以外の男になんか会わないで!”と駄々をこねたから。

「ごめんね!できる限り、王弥くん以外の人と会わないようにしたくて……」
「和可子に聞いたよ!
━━━━━━━えーと、八神様。
初めまして、堤崎(つつみざき) 明文です。
沖津の会社で、働いてます。将来は関わることになるんじゃないかな?」
王弥に握手を求める、明文。

その手を握り返した、王弥。
無言で握りしめた。

まるで、握り潰すかのように━━━━━━━━━

「イテテ……」
「あ、失礼!!八神 王弥です。
“妻の”理世が“昔”お世話になってたみたいで………」
意味深な王弥の言葉と、鋭い視線、そして恐ろしい雰囲気。

「俺、警戒されてる?」
「警戒?
まさか!!それ以上に、嫌悪してますよ!」
と、王弥が微笑み言った。

「ちょっ…王弥くん!」
「ん?」
「嫌悪って、そんな……」

「理世ちゃんは、僕以外いらないでしょ?」

「またそんなこと……」
俯き言った、理世。

「大丈夫。僕も、理世ちゃん以外いらないから」
そんな理世の頬を包み、上を向かせた王弥。

言い聞かせるように言った。

「僕達は、相思相愛。
お互いに、お互いしかいらない」


喫煙所にて━━━━━━━━━
沖津、財前、明文が話している。

「明文、手…大丈夫?」
「うん」
「二人は、前からの知り合いなの?」
財前が二人に言った。

「「大学の同級」」
「それで!」
「びっくりだよ、理世が八神一族に入るなんて…」
「好きだったとか?奥様のこと」
「うーん。妹みたいな感じかな?
俺には、和可子がいるし。
でも………」
「え?」

「敏一は、理世に興味あったんだろ?」
「え?沖津が?」
財前が驚愕する。

「奥様…理世ちゃんは、覚えてないみたいだけど……
俺、大学の時に一度会ってるんだ、理世ちゃんに。
理世ちゃんはまだ、高三だったかな。
正直、地味だなぁって思ったんだけど、明文に紹介された時の照れてる表情(かお)が、可愛くて……!
俺の周りにはいないタイプの子だったからな。
なんか、気になっちゃって!」

沖津がゆっくり話し出す。
その顔は、とても穏やかだ。

「会社立ち上げて軌道に乗せたらコクるつもりが、気づいた時には………」

「僕のモノ!!!
…………になってたって言いたいんでしょ?」
いつの間にか、王弥が立っていた。
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