白いシャツの少年 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】
このまま時間が止まってしまえばいい。
そんなことを思ってしまうほど、自分
は彼が好きなのだと気付いてしまう。
永遠にこの道が続けばいい。
そう願ってしまうほどに、自分は彼が
欲しくて堪らないのだと気付いてしまう。
――気付きたくなど、なかったのに。
夢のような時間は、たった数秒だった。
締め付けられるような胸の痛みに目を
開けた千沙は、自分たちを照らす灯りを
見つけ、心を凍らせた。細い十字路の
向こうから、自転車が近づいている。
そのハンドルを握っている人物が自分
たちを見つけ、速度を上げていた。
「……止まって、侑久」
絞り出した声は、酷く震えていた。
「ちぃ姉?」
その声に、怪訝な顔をしているであろ
う侑久に、次の瞬間、千沙は思いきり声
を張り上げた。
「止まれっ、侑久!!止まって!!」
突然、喚くようにそう言った千沙に
侑久が自転車を止めるのと、自分たちを
追うように走ってきた自転車が、キッ、
とブレーキ音をさせて止まったのは同時
だった。
「ちょっと待ちなさい、そこの二人!」
ガチャ、と道路脇に自転車を止めた警官
がつかつかと自分たちに歩み寄っている。
ようやく状況を飲み込めた侑久が、気遣
うように千沙を振り返った。千沙はその
侑久に唇を噛みしめると、右足を庇いな
がらそっとリアキャリアから降り立った。
「道路交通規則で二人乗りが禁止されて
いることは知っているでしょう?違反行為
には罰則が科せられるんですよ!」
恰幅のよい警官が、両手を腰にあて二人
の顔を交互に睨みつけている。千沙は背に
庇うようにして侑久の前に立つと、神妙な
面持ちで深々と頭を下げた。
「はい。規則違反とわかっていながら、
このような危険な行為に及んでしまった
こと、深く反省しております。責任は
すべて私にあります。大変申し訳ありま
せんでした!!」
悔恨の念を露わにし、ひたすら平身低
頭する千沙に、警官はやや恐縮したよう
な表情を浮かべる。と、千沙の背後から
一歩前に出た侑久も、同じように深々と
頭を下げた。
「足を怪我してしまったので、俺が無
理に乗せて帰ろうとしたんです。だから、
先生は何も悪くありません。交通ルール
を破ってしまって、本当に申し訳ありま
せんでした」
互いに、互いを庇いながら謝罪する姿
に、警官は「はあ、先生ですか……」と
千沙の足元を見やる。そして小さく息を
吐くと、「もう頭をあげてください」と
穏やかな声で言った。
「その制服、藤ノ森英明学園のでしょ
う。あなたはそこの先生なんですか?」
懐から手帳を取り出し、ペンを片手に
千沙を向いた警官に、千沙は軽く絶望する。
そんなことを思ってしまうほど、自分
は彼が好きなのだと気付いてしまう。
永遠にこの道が続けばいい。
そう願ってしまうほどに、自分は彼が
欲しくて堪らないのだと気付いてしまう。
――気付きたくなど、なかったのに。
夢のような時間は、たった数秒だった。
締め付けられるような胸の痛みに目を
開けた千沙は、自分たちを照らす灯りを
見つけ、心を凍らせた。細い十字路の
向こうから、自転車が近づいている。
そのハンドルを握っている人物が自分
たちを見つけ、速度を上げていた。
「……止まって、侑久」
絞り出した声は、酷く震えていた。
「ちぃ姉?」
その声に、怪訝な顔をしているであろ
う侑久に、次の瞬間、千沙は思いきり声
を張り上げた。
「止まれっ、侑久!!止まって!!」
突然、喚くようにそう言った千沙に
侑久が自転車を止めるのと、自分たちを
追うように走ってきた自転車が、キッ、
とブレーキ音をさせて止まったのは同時
だった。
「ちょっと待ちなさい、そこの二人!」
ガチャ、と道路脇に自転車を止めた警官
がつかつかと自分たちに歩み寄っている。
ようやく状況を飲み込めた侑久が、気遣
うように千沙を振り返った。千沙はその
侑久に唇を噛みしめると、右足を庇いな
がらそっとリアキャリアから降り立った。
「道路交通規則で二人乗りが禁止されて
いることは知っているでしょう?違反行為
には罰則が科せられるんですよ!」
恰幅のよい警官が、両手を腰にあて二人
の顔を交互に睨みつけている。千沙は背に
庇うようにして侑久の前に立つと、神妙な
面持ちで深々と頭を下げた。
「はい。規則違反とわかっていながら、
このような危険な行為に及んでしまった
こと、深く反省しております。責任は
すべて私にあります。大変申し訳ありま
せんでした!!」
悔恨の念を露わにし、ひたすら平身低
頭する千沙に、警官はやや恐縮したよう
な表情を浮かべる。と、千沙の背後から
一歩前に出た侑久も、同じように深々と
頭を下げた。
「足を怪我してしまったので、俺が無
理に乗せて帰ろうとしたんです。だから、
先生は何も悪くありません。交通ルール
を破ってしまって、本当に申し訳ありま
せんでした」
互いに、互いを庇いながら謝罪する姿
に、警官は「はあ、先生ですか……」と
千沙の足元を見やる。そして小さく息を
吐くと、「もう頭をあげてください」と
穏やかな声で言った。
「その制服、藤ノ森英明学園のでしょ
う。あなたはそこの先生なんですか?」
懐から手帳を取り出し、ペンを片手に
千沙を向いた警官に、千沙は軽く絶望する。