白いシャツの少年 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】
「……御堂先生」
そこには、予想した通りの人物が立っ
ていた。千沙は何となく、いつもと違う
自分を見られていることに気恥ずかしさ
を覚えながら、微笑を向けた。その千沙
に、何を言うでもなく御堂が入ってくる。
そして、窓際に立つ千沙の傍まで歩み
寄ると、彼はようやく口を開いた。
「今日のあなたは、まるで別人のよう
ですね」
その声はとても穏やかなのに、なぜか、
いつもの御堂のそれとは違う気がして、
千沙は戸惑いに小首を傾げる。
「実は昨日、眼鏡を無くしてしまった
んです。度が入っているわけじゃないの
で、授業には差し支えなかったんですけ
ど。眼鏡をかけていないだけでそんなに
変わりますか?生徒たちにも、ずいぶん
冷やかされてしまって……」
「あなたが美人だということに、気付い
たからでしょう。今までは冴えないこの
眼鏡で上手く隠してきましたが、ついに
バレてしまいましたか」
「びっ……!?」
思いも寄らぬ単語が御堂の口から飛び出
したので、千沙はうっかり舌を噛んでし
まった。が、その痛みに顔を顰める間も
なく、彼が胸ポケットから取り出したも
のを見、驚きに目を見開く。
そこには、無くしたとばかり思っていた、
あのだて眼鏡があった。
「そ、それっ……」
大きな掌に載せられている、野暮ったい
眼鏡を凝視して千沙は声を上げる。
見たところ、レンズに傷はない。
「昇降口の、傘立ての側に落ちていたん
ですよ。あなたが落としたものだとわかっ
ていたので……僕が預かっていました」
「そうだったんですね。ありがとうご
ざいます。新しいものを買わなくてはと
思っていたので、助かりました」
――あなたが落としたとわかっていた。
というその言葉に違和感を抱きつつも、
千沙は安堵した顔で掌にあるそれに手を
伸ばした。けれど、千沙の手が眼鏡に触
れるよりも先に、御堂はそれを握り締め、
また胸ポケットに戻してしまった。
「……あの?」
彼の不可解な行動に眉を顰めた千沙の耳
に囁くような声が聞こえ、千沙は咄嗟に
御堂を見上げた。
「こんなもので隠してしまうのが……
口惜しい」
初めて聞くような、その甘い声が聞こ
えた直後だった。ふいに視界が覆われた
かと思うと、千沙の唇を柔らかな感触が
包み込んだ。
「……!!?」
それは一瞬のことで、あらがう間も、
戸惑う間もなかった。
――御堂が自分に、口付けている。
大きな手が自分に伸ばされたかと思う
と、そのまま抱きすくめられ、深く唇を
重ねられてしまった。
「……っ」
訳もわからぬまま、千沙は御堂に与え
られる初めての口付けに翻弄される。
そこには、予想した通りの人物が立っ
ていた。千沙は何となく、いつもと違う
自分を見られていることに気恥ずかしさ
を覚えながら、微笑を向けた。その千沙
に、何を言うでもなく御堂が入ってくる。
そして、窓際に立つ千沙の傍まで歩み
寄ると、彼はようやく口を開いた。
「今日のあなたは、まるで別人のよう
ですね」
その声はとても穏やかなのに、なぜか、
いつもの御堂のそれとは違う気がして、
千沙は戸惑いに小首を傾げる。
「実は昨日、眼鏡を無くしてしまった
んです。度が入っているわけじゃないの
で、授業には差し支えなかったんですけ
ど。眼鏡をかけていないだけでそんなに
変わりますか?生徒たちにも、ずいぶん
冷やかされてしまって……」
「あなたが美人だということに、気付い
たからでしょう。今までは冴えないこの
眼鏡で上手く隠してきましたが、ついに
バレてしまいましたか」
「びっ……!?」
思いも寄らぬ単語が御堂の口から飛び出
したので、千沙はうっかり舌を噛んでし
まった。が、その痛みに顔を顰める間も
なく、彼が胸ポケットから取り出したも
のを見、驚きに目を見開く。
そこには、無くしたとばかり思っていた、
あのだて眼鏡があった。
「そ、それっ……」
大きな掌に載せられている、野暮ったい
眼鏡を凝視して千沙は声を上げる。
見たところ、レンズに傷はない。
「昇降口の、傘立ての側に落ちていたん
ですよ。あなたが落としたものだとわかっ
ていたので……僕が預かっていました」
「そうだったんですね。ありがとうご
ざいます。新しいものを買わなくてはと
思っていたので、助かりました」
――あなたが落としたとわかっていた。
というその言葉に違和感を抱きつつも、
千沙は安堵した顔で掌にあるそれに手を
伸ばした。けれど、千沙の手が眼鏡に触
れるよりも先に、御堂はそれを握り締め、
また胸ポケットに戻してしまった。
「……あの?」
彼の不可解な行動に眉を顰めた千沙の耳
に囁くような声が聞こえ、千沙は咄嗟に
御堂を見上げた。
「こんなもので隠してしまうのが……
口惜しい」
初めて聞くような、その甘い声が聞こ
えた直後だった。ふいに視界が覆われた
かと思うと、千沙の唇を柔らかな感触が
包み込んだ。
「……!!?」
それは一瞬のことで、あらがう間も、
戸惑う間もなかった。
――御堂が自分に、口付けている。
大きな手が自分に伸ばされたかと思う
と、そのまま抱きすくめられ、深く唇を
重ねられてしまった。
「……っ」
訳もわからぬまま、千沙は御堂に与え
られる初めての口付けに翻弄される。