白いシャツの少年 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】
千沙は緊張でカラカラになってしまっ
た喉から、消え入りそうな声を絞り出す。
「教師としての自覚を欠いた行為でした。
この学園を継ぐ者として、本当に恥ずかし
い限りです」
昨日も似たようなセリフを口にしたな、
と、内心自嘲の笑みを浮かべる。あの警
官の言う通り、今日くらいという油断が、
こんな事態を招いてしまった。けれど、
消沈した様子で反省の意を述べた千沙に、
御堂は深いため息をついた。
「僕は教師としての言い訳を訊いてい
るわけじゃありません。恋人としての言
い訳を訊いているんです」
その言葉に千沙は、はっとする。
――恋人としての言い訳?
改めてそう訊かれると、何をどう口に
すればいいか、わからない。
侑久がどうしてもと言うから甘えて
しまったと言えばいいのだろうか?
違う。責任転嫁もいいところだ。
自分は心の底では、彼を望んでいた。
それを、どう言い訳しろと言うのだ
ろう?考えても答えは見つからない。
再び口を閉ざしてしまった千沙に、
御堂はすぅ、と目を細め質問を変えた。
「では単刀直入に訊きます。あなたに
とって蘇芳侑久はどんな存在ですか?」
「どんな存在……というと?」
回答でなく、質問に質問を返した千沙
に、御堂は語気を強める。
「まさか、彼にあらぬ感情を抱いている
わけじゃないですよね?と訊いているん
です。生徒でも幼馴染みでもなく、男性
として彼を見ているなら、僕は黙って見
ているわけにはいきません。先日も言い
ましたが、僕は『あなた』だからこの
結婚を望んだんです。決して、学園の
経営者になりたいからではない。遠回し
に言ってもわかってもらえないようなの
で、この際はっきり言いましょう。僕は
あなたが好きです。だから、怒っている」
眉間にシワを寄せ、「好きだ」と言った
御堂に、千沙は息を止める。
甘い愛の告白ではなく、勢いに任せて
言ってしまったという感じだったが、
その言葉に嘘がないことは、わかる。
御堂は真剣な眼差しを向けたまま、
じっと千沙の返事を待っている。
だからこれ以上、手の届かぬ恋を、
侑久を望むことは出来なかった。
千沙は僅かに目を伏せると、言った。
「あなたを不安にさせてしまって、
すみません。私はこの学園の教師で、
彼は一生徒に過ぎません。幼馴染み以上
の感情も、ありません。だから……」
その先の言葉が見つからず言葉を途ぎ
った千沙に、御堂は遠くを眺めるように
して、窓の向こうを見やる。
この答えじゃ不服なのだろうか?
「好きだ」と言わなければ、彼は納得
出来ないのかも知れない。
そう思い至って顔を上げると、御堂は
視線を窓の外に向けたまま言った。
「それなら、あなたが拒む理由は何も
ありませんね」
「……は?」
いったい、何を言っているのか?
わけがわからず、千沙は怪訝な顔をする。
ゆっくりと、御堂が視線を千沙に戻す。
その眼差しに射抜かれたように、千沙は
身体を硬くした。
「今からあなたを抱きます。そこなら、
誰かに見つかることもない」
ちらり、と御堂が執務室のドアを見る。
その意味を理解した瞬間、千沙は身体中
の血が沸騰してしまった。
た喉から、消え入りそうな声を絞り出す。
「教師としての自覚を欠いた行為でした。
この学園を継ぐ者として、本当に恥ずかし
い限りです」
昨日も似たようなセリフを口にしたな、
と、内心自嘲の笑みを浮かべる。あの警
官の言う通り、今日くらいという油断が、
こんな事態を招いてしまった。けれど、
消沈した様子で反省の意を述べた千沙に、
御堂は深いため息をついた。
「僕は教師としての言い訳を訊いてい
るわけじゃありません。恋人としての言
い訳を訊いているんです」
その言葉に千沙は、はっとする。
――恋人としての言い訳?
改めてそう訊かれると、何をどう口に
すればいいか、わからない。
侑久がどうしてもと言うから甘えて
しまったと言えばいいのだろうか?
違う。責任転嫁もいいところだ。
自分は心の底では、彼を望んでいた。
それを、どう言い訳しろと言うのだ
ろう?考えても答えは見つからない。
再び口を閉ざしてしまった千沙に、
御堂はすぅ、と目を細め質問を変えた。
「では単刀直入に訊きます。あなたに
とって蘇芳侑久はどんな存在ですか?」
「どんな存在……というと?」
回答でなく、質問に質問を返した千沙
に、御堂は語気を強める。
「まさか、彼にあらぬ感情を抱いている
わけじゃないですよね?と訊いているん
です。生徒でも幼馴染みでもなく、男性
として彼を見ているなら、僕は黙って見
ているわけにはいきません。先日も言い
ましたが、僕は『あなた』だからこの
結婚を望んだんです。決して、学園の
経営者になりたいからではない。遠回し
に言ってもわかってもらえないようなの
で、この際はっきり言いましょう。僕は
あなたが好きです。だから、怒っている」
眉間にシワを寄せ、「好きだ」と言った
御堂に、千沙は息を止める。
甘い愛の告白ではなく、勢いに任せて
言ってしまったという感じだったが、
その言葉に嘘がないことは、わかる。
御堂は真剣な眼差しを向けたまま、
じっと千沙の返事を待っている。
だからこれ以上、手の届かぬ恋を、
侑久を望むことは出来なかった。
千沙は僅かに目を伏せると、言った。
「あなたを不安にさせてしまって、
すみません。私はこの学園の教師で、
彼は一生徒に過ぎません。幼馴染み以上
の感情も、ありません。だから……」
その先の言葉が見つからず言葉を途ぎ
った千沙に、御堂は遠くを眺めるように
して、窓の向こうを見やる。
この答えじゃ不服なのだろうか?
「好きだ」と言わなければ、彼は納得
出来ないのかも知れない。
そう思い至って顔を上げると、御堂は
視線を窓の外に向けたまま言った。
「それなら、あなたが拒む理由は何も
ありませんね」
「……は?」
いったい、何を言っているのか?
わけがわからず、千沙は怪訝な顔をする。
ゆっくりと、御堂が視線を千沙に戻す。
その眼差しに射抜かれたように、千沙は
身体を硬くした。
「今からあなたを抱きます。そこなら、
誰かに見つかることもない」
ちらり、と御堂が執務室のドアを見る。
その意味を理解した瞬間、千沙は身体中
の血が沸騰してしまった。