白いシャツの少年 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】
「とっ、智花が変なこと聞くから!」
「変なコトって、もしかして御堂先
生と窓際で絡み合ってたこと?あれだけ
大胆なコトしてたくせに、今さら赤面す
る方がおかしくない?キスしたくて、
シタくせに」
顔をまっ赤にして声を上げた千沙に、
智花は澄ました顔で嫌味たっぷりに言う。
白いレースのターバンで長い髪を可愛
らしくヘアアレンジしている智花を見れ
ば、背もたれに両肘を付き、探るような
目を自分に向けている。千沙はその眼差
しに怯むように顔を背けると、吐き捨て
るように言った。
「別に……したくてしたワケじゃない。
私から進んで、あんなことしようと思う
訳がないだろう?」
「じゃあ、なんでシテたの?濃厚な
ラブシーン見せられちゃった身としては、
気になってしょうがないんですケド」
千沙の顔色を窺うようにして訊く智花
に、千沙は言い淀む。
まさか、「侑久との仲を嫉妬した御堂
に身体の関係を迫られて、仕方なくイタ
しました」とは、言えない。
いくら恋人関係にあるとは言え、自分
たちは教師なのだ。ひと気のない歴史資
料室を私物化し、そんな行為に及ぼうと
していたなんて……口が裂けても言えな
かった。
「そんなこと、人に言うことでもない
だろう。二度と学校であんなことはしな
い。だからもう、忘れてくれ」
背を向け、薬瓶の蓋を固く閉じながら
そう言うと、智花は「ふうん」と鼻を鳴
らした。そして、まったく納得できない
といった様子で話を続けた。
「別に、教師だって人間なんだから職場
でそういうコトしたくなっても、おかしく
はないんだけどねぇ。友達の中にも、学校
で最後までしちゃってる子もいるし。それ
より、智花が訊きたいのはちぃ姉の気持ち
なの。ちぃ姉はどうなの?本当に御堂先生
のこと、好きなの?」
今、凄い話が聞こえてこなかったか?
千沙は妹が平然と言ってのけた内容に
びっくりして、思わず振り返る。そして、
夜空の星を散りばめたような瞳に捉まっ
てしまい、逃げ口上が見つからなかった。
千沙は僅かに俯くと、正直に答えた。
「好き、ではないな。でも結婚すれば、
たぶん好きになれると思う。一緒に暮ら
せば、情が湧くと思うし」
「何それ。じゃあ、結婚しても好きに
なれなかったら?好きじゃない、なんて
断言される御堂先生が可哀そう!」
思いきり顔を顰めて智花に責められれ
ば、千沙も罪悪感に胸が痛まないことも
ない。けれど、もともと自分たちは父親
に引き合わされた間柄で、初めから恋愛
感情があったわけでもない。見合い結婚
と同じだと考えれば、結婚してから愛を
育むのは自然の流れではないのか?
「変なコトって、もしかして御堂先
生と窓際で絡み合ってたこと?あれだけ
大胆なコトしてたくせに、今さら赤面す
る方がおかしくない?キスしたくて、
シタくせに」
顔をまっ赤にして声を上げた千沙に、
智花は澄ました顔で嫌味たっぷりに言う。
白いレースのターバンで長い髪を可愛
らしくヘアアレンジしている智花を見れ
ば、背もたれに両肘を付き、探るような
目を自分に向けている。千沙はその眼差
しに怯むように顔を背けると、吐き捨て
るように言った。
「別に……したくてしたワケじゃない。
私から進んで、あんなことしようと思う
訳がないだろう?」
「じゃあ、なんでシテたの?濃厚な
ラブシーン見せられちゃった身としては、
気になってしょうがないんですケド」
千沙の顔色を窺うようにして訊く智花
に、千沙は言い淀む。
まさか、「侑久との仲を嫉妬した御堂
に身体の関係を迫られて、仕方なくイタ
しました」とは、言えない。
いくら恋人関係にあるとは言え、自分
たちは教師なのだ。ひと気のない歴史資
料室を私物化し、そんな行為に及ぼうと
していたなんて……口が裂けても言えな
かった。
「そんなこと、人に言うことでもない
だろう。二度と学校であんなことはしな
い。だからもう、忘れてくれ」
背を向け、薬瓶の蓋を固く閉じながら
そう言うと、智花は「ふうん」と鼻を鳴
らした。そして、まったく納得できない
といった様子で話を続けた。
「別に、教師だって人間なんだから職場
でそういうコトしたくなっても、おかしく
はないんだけどねぇ。友達の中にも、学校
で最後までしちゃってる子もいるし。それ
より、智花が訊きたいのはちぃ姉の気持ち
なの。ちぃ姉はどうなの?本当に御堂先生
のこと、好きなの?」
今、凄い話が聞こえてこなかったか?
千沙は妹が平然と言ってのけた内容に
びっくりして、思わず振り返る。そして、
夜空の星を散りばめたような瞳に捉まっ
てしまい、逃げ口上が見つからなかった。
千沙は僅かに俯くと、正直に答えた。
「好き、ではないな。でも結婚すれば、
たぶん好きになれると思う。一緒に暮ら
せば、情が湧くと思うし」
「何それ。じゃあ、結婚しても好きに
なれなかったら?好きじゃない、なんて
断言される御堂先生が可哀そう!」
思いきり顔を顰めて智花に責められれ
ば、千沙も罪悪感に胸が痛まないことも
ない。けれど、もともと自分たちは父親
に引き合わされた間柄で、初めから恋愛
感情があったわけでもない。見合い結婚
と同じだと考えれば、結婚してから愛を
育むのは自然の流れではないのか?