メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

東京丸の内のオフィスビル。二十五階にある部屋は全面ガラス張りで、窓からは都内のビル群が一望できる。「圧倒的開放感」というのが売りのこの物件を気に入り、安西が会社を移転したのは一年前のことだ。

十月の今日は快晴で、オフィス内は謳い文句どおりの自然採光で満たされている。でも、安西のいる部屋は晴れやかとは言い難い空気が満ちていた。


「話し合いの途中で村役場の幹部と反対派が揉めだして、会議は途中で打ち切りになりました」
安西は、困ったように話す部下の報告を聞いていた。

「わかった。じゃあ、この案件は保留ということで」
「承知いたしました」

報告を終了した部下はホッとしたような表情で部屋を出ていき、その背中を見送った安西はフーっとため息をついた。

「また、揉め事か?」
心配そうに秘書の今西が声をかけてくる。

「ああ」
安西は短く答えた。


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