メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

安西が代表取締役を務めるのは、『地方創生』のコンサルティングを業務としている『株式会社クリエイトウエスト』だ。
都会の人口集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかける『地方創生』。これは現政権肝いりの政策の一つで、行政から補助金が支給される立派なビジネス分野の一つとなっている。

安西は大学を卒業後、大手の不動産会社に就職した。転勤の多い部署に配属になり、最初の配属先が地方だったことで、地域おこしの活動に参加することになった。
決して好んで参加したわけではない。会社から「やれ」と命じられたので参加しただけだ。でも、これが「地方創生は商売になるのでは」と気づくきっかけとなったのだ。

それ以降は、各地の地域おこしに積極的に参加し、様々な経験を積んだ。
不動産の仕事より地域おこしにウエイトを置くようになってきたところで、専門のコンサルティング会社を起業することを決意。友人の今西を誘って『株式会社クリエイトウエスト』を立ち上げるに至った。今から五年前のことである。

最初は二人でスタートさせた企業も、今では従業員五十名を抱えるまでに成長した。今注目の企業ということで、マスコミに取り上げられることもある。業務内容が地方を救う仕事だけに、安西は、地方のために心血を注ぐ「素晴らしい経営者」と評価されるようになったのだ。

しかし、実際はそうではない。安西にとって『地方創生』は、あくまでもビジネス、単なる職業の一つだ。
でも、入社を希望してくる者の中には、『地方の役に立ちたい』という熱い想いを持っている若者が多くいる。図らずしもクリエイトウエストは、親身になって村や町を救ういい会社と認識されるようになった。現在は、コンサルティングを希望する市町村の依頼が絶えず、相談するのにも時間を要する状態になっている。


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