メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

ここまでの説明だと順風満帆なようだが、最近ちらほらと問題が発生し始めた。

コンサルティングを依頼してくるのは、地方の役場が多い。過疎が進む市町村は「何か策を講じろ」とせっつかれるが、何をどうしてよいかわからず安西の会社に相談してくる。

どのように地域おこしをしていくのかは、その町村の意向を聞いて決めるのだが、厄介なことに、役場の意向と住民の意向が食い違っていることがある。事前に村としての意向が一本化されていないのだ。

先ほどの部下の報告のように、打ち合わせのときに、役場の人間と住民が揉めて話し合いが進まなくなり、安西たちが途方に暮れることも少なくない。

実際、安西が手掛けたで町でも、町おこしの方針で町長と町の青年団の意見が割れ、住民投票にもつれ込んだケースもある。


「実際に話を聞く前に、もっと念入りな調査が必要だな。社員を派遣して、しばらく住民に混ざって生活させたらどうだろう。数か月いれば、実際に土地の様子もわかるし」
部下が退室した後、今西が提案をしてきた。

「数か月も社員を送り込む余裕がうちにあるか?新しく社員を募集してもいいが、地方を移り住む職種だと集まりにくいだろうな」
何かいい方法はないものかと安西は考え込んだ。

そんな安西をチラッと見ながら、今西はゴソゴソと書類らしきものを取り出した。

「こんな時に悪いけど、早く連絡をよこせっておじい様がうるさいんだよ」
そう言いながら、分厚いA4サイズの封筒を差し出してくる。安西は封筒を受け取ったが、中身をチラッと見てうんざりしたように机に置いた。

「適当に断ってくれって言っただろ。じいさんのしつこさには呆れるな」

「適当に断れる時期はとうに過ぎたんだ。何回断ったと思う?俺にはもうできない。俺が使えない男だとおじい様に認定されたら、晴夏が悲しむだろ」
今西が憮然としながら言った。

『晴夏がそんなことで悲しむもんか』
そう思ったが、安西は口をつぐんだ。

今西は友人であり秘書でもあるが、実は妹の晴夏の夫でもある。妹と結婚すると言い出したときは驚いたし、反対でもあった。でもそれは妹を想う気持ちからではなく、晴夏はかなり厄介なやつなので、今西のために反対したかったのだが…。
仕方がない。人の好みにとやかく言うべからず。今は、友人で秘書で義理の弟という深すぎる関係に落ち着いている。

「……わかった。俺が連絡する」

怖い顔で睨みつけている今西に、安西はしぶしぶ答えた。


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