メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

灯里は十二月の松山空港をキョロキョロしながら歩いていた。愛媛県の松山は温泉地なので冬場の観光客も多い。灯里はこんなに人がたくさんいるところに久しぶりに来た。今は半分自給自足のような生活をしているので、買い物にでることもあまりないのだ。

今、灯里は四国の海沿いの町に住んでいる。漁業が盛んな街で、冬でも比較的暖かい土地だ。お隣に住む大家さんは農家で、高齢のご夫婦がこじんまりと農作物を育てている。灯里が住んでいる家の庭にも小さな畑があって、好きなだけ取って食べていいと言ってくれた。だから、ここに越してきてからは野菜を買うことがなくなった。灯里が全面的に育てている訳ではないが、水やりなどは手伝っているので〝半分自給自足〟いや、〝三分の一自給自足〟と言ったところか。

今日は晴夏と義母が遊びに来ることになっている。一緒に温泉宿に泊まりましょうよ、とお誘いを受け、こうして空港に迎えに来たというわけだ。

到着ロビーで待っていると、黒のコートに黒いサングラスをした背の高い女性がやってきた。お忍びの芸能人?と興味津々で見ていると晴夏だった。

「灯里ちゃん!会いたかったわー」

ムギュッとハグされると、久しぶりの豊満な胸がなんとも気持ちよい。変態のような感想を抱いてしまったが、何食わぬ顔で灯里もギュッと抱きしめ返した。

「灯里ちゃん、元気そうでよかったわ」

義母もハグしてくれる。甘い香り。両親を早くに亡くした灯里は、義母の香りに触れると、いつも切ない気持ちになる。記憶の中の母はおぼろげだが、いつもいい匂いだった気がするのだ。

三人でキャッキャッと再会を喜び合っていると、黒のサングラスをしたおじいさんが近寄ってきた。

「わしを忘れんでくれ」
スチャッとサングラスを外すと、スーツの胸ポケットにかっこよく収めた。

「あら、ごめんなさい。灯里ちゃん紹介するわね、私の父よ」
義母がサラリと紹介をした。

「陽大の祖父の和泉厳太郎です。灯里ちゃん会いたかったで」

「!!」


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