メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

結婚前から灯里が住む家を熱心に整え、土地が変わるごとに不自由な生活をしていないか今西に探りを入れてきた。冬場の豪雪地帯に行ってもらったときには、本人から寒いと訴えがきたらしく、いそいそと防寒具を送っていたことも知っている。

週一回の灯里からのメールを楽しみにし、なかなか来ない日は落ち着かない様子で待っている。灯里がいる土地の名物を必死に探して食べているが、なぜかそれを食すのは昼の十二時と決まっている。時間を気にしながら食べ終えた時の満足気な様子は、見ていてかなり微笑ましい。

どう見ても灯里に振り回されている安西。それは、実際灯里に会ったことがある今西にとっては驚きでしかない。灯里は小悪魔とも言えないほどの、本当に普通の女の子だからだ。

それだけじゃない。仕事面でも安西は変わった。

地方創生の仕事は単なる職業の一つだと言い切っていた安西だが、灯里の故郷の村を手掛けた時に何か違うスイッチが入ったようだ。明らかにそれ以降は仕事に対する熱意というか、人間的に温かみが出て来た気がする。頭脳明晰で行動力もある安西に、唯一欠如していた〝優しさ〟が補われたわけだ。

相手に会ったことがない偽装結婚でも、人を変えることはあるのだろうか。

機嫌よく仕事をしている安西をもう一度チラッと見てみる。

同僚の吉田亜里沙との関係も結婚を機に終わらせたみたいだし、それからは女の影は見当たらない。これは本当にひょっとしたらひょっとするのか?

今日は灯里の最後の引っ越しだ。残りの三ヶ月は今までの中で一番近くにいる。最後の最後に関東に呼び寄せたのには意味があるのだろう。

安西が灯里のもとを訪問する時には、もちろん今西も同伴するつもりだ。どんな対面になるか、想像するだけで面白い。

さて、いつにするかな。三ヶ月なんてあっという間だ。

恋愛事に疎そうな灯里と、真剣な恋愛経験のない安西がすぐにうまくいくとは思えない。

やれやれと思いながら、友人の最初で最後の恋を応援するために、今西はスケジュールの確認をし始めた。

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