契約結婚のススメ
 うらやましい。私も男だったらもっとあちこち気軽に行けるのに。

「君はあまり出歩かないの?」

「はい。ショッピングくらいですね。あとはホストマザーに美術館とか観光地に連れて行ってもらったり。ひとりで出歩くのはやっぱり怖いから」

 ここはイタリア。解放感に高揚したままひとりで飛び回るには危険が多すぎる。

 彼も同意するようにうなずいた。
「そうだな。女の子はちょっと心配かも。スラれそうになった俺が言うのもなんだけど」

 くすっと思わず笑ってしまった。

「えっと、君をなんと呼べば」

「あ、はい。ひ――」

 ん? もしかして彼は教えてくれないのかな。そうだとしたら自分だけ本名を名乗るのはちょっと嫌だ。

「えっと、あなたは?」
「俺はアキラだ。君がさっきそう呼んだだろう?」

 もしかして、からかわれてる?

 彼はちょっと意地悪そうに口もとをにやりと歪め、「ひ?」と小首を傾げた。

 こうなったら絶対に本名は教えない。〝ひ〟がつく適当な名前はなにかないか、ひ、ひ……。
< 14 / 203 >

この作品をシェア

pagetop