契約結婚のススメ
「ヒヨコ、です」

 しまった。黄色いピヨピヨしたヒヨコのイントネーションで言ってしまった。

「ヒヨコ?」

 アハハと笑ってごまかしながら、名前らしい抑揚でヒヨコと言い換える。今更だけど。
「かわいいな。君にぴったりだ」

 白い歯を見せて笑う彼は完全に私をからかっている。

 もう、ひどいな。私はかわいいと言われても少しもうれしくない。早く自立した素敵な大人の女性になりたいのに。

 気を取り直してコーヒーカップを手に取った。

 頼んだのはカフェ・マキアート。カップの中に白い葉が広がるような模様が浮かび上がっている。マキアートはイタリア語で〝染み〟という意味だ。蒸気で泡立てた白いミルクの染みをつけたエスプレッソなので甘くはない。

 キャラメルマキアートにしなくてよかった。お子ちゃま扱いされちゃうところだった。

 ちらりと彼を見ると、長いまつげを伏せて味わうようにコーヒーを飲んでいる。ちなみに彼が飲んでいるのはエスプレッソ。

 悔しいけれどイメージによく似合っている。

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