契約結婚のススメ
 でも、どう思われても構わない。今すぐ一貴さんに会いたい。元気でさえいてくれればいいの。邪魔ならすぐ日本に帰るから、だからどうか。

 込み上げる涙を止められなかった。

 バッグからハンカチを取り出して涙を拭うと、ふとバックミラー越しに運転手と目が合った。女性運転手だ。

「すみません」

 気恥ずかしさにうつむく私に「どうぞ、気にしないでください」と、運転手が声をかけてくれた。

「泣きたい時は思い切り泣いたほうがいいですよ」

「ありがとうございます」

 女性運転手がFMラジオをつけてボリュームを上げてくれたおかげで、それからもう少し泣いて、鼻をかんだ。

「個人タクシーで女性の運転手さんって珍しいですね」

「ええ。おかげで椿山の奥様にはご贔屓にしてもらっています」

「そうなんですね」

 母がよく利用していたタクシーの運転手はもう高齢だったから引退したのかもしれない。

「もしかして、椿山のお嬢さまでいらっしゃいますか?」

「はい」

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