契約結婚のススメ
 おとといの夜スマートホンに非通知の電話があったの。

 普段なら非通知の電話なんて出ないのに、一貴さんが倒れたりしたあとだから不安になって出てみた。

『はぁ、はあ。あっ、ああ……イツキ、イツキ』

 聞こえてきたのは情事を思わせる女性の喘ぎ声と雑音。

 慌てて電話を切った。

 心臓が暴れ出して、唇が震えて。

 すぐに一貴さんに電話を掛ければ、なにか分かるかもしれない。そう思ってスマートホンを見つめたけれど、結局私はなにもできなかった。

 今の私は、電話に彼が出て普通に話をしても、多分信用できなかったと思う。

 ロサンゼルスのテレビ電話に映った髪の長い女性の影のように、誰かいるんでしょうって、疑ってしまう。

 だって、非通知の電話がある三十分前に、一貴さんから『ごめん。まだ終わらないんだ』と電話があったんだもの。

 朝出かけた時は、残業はないと言っていたのに。

『過労で倒れたから、当分残業なしって決まったんだ』

 そう言っていたじゃないって疑ってしまう。

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