契約結婚のススメ
「私も聞かれれば真っ向から否定するつもりでいたんですが、なにも聞かれなくて。それでも――」

 森下はふいに口ごもる。

「それでも、なんだ」

「奥様は専務をとても愛していらっしゃると思いました。本当に素敵な奥様です。大事になさってください」

「ああ……。わかっている。とにかく急いで弁護士にこの件を頼んでくれ」

「承知しました」

 森下は執務室を出て行った。

 森下がなぜ、陽菜は俺を愛していると思うのかはわからない。

 俺だって、陽菜は俺を好きだと言う。時には愛しているとも言ってくれるが、なにかが違う。

 ローマで会った時や、婚約期間のような無垢な笑顔があまり見られなくなった。

 大切な父親が亡くなった悲しさがそうさせているのかと思ったが。

 まさか、こんな形で?

 額に手をかけたその時、スマートホンが揺れた。

 希子さんからのメッセージだ。

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