契約結婚のススメ
『でも美加の経歴を利用すれば銀座店はなんとかなるかもしれないってね。美加がいつか小料理屋みたいな店を持ちたいって言っていたのを思い出したのよ』

 その時のために、義母は父が持っていた枇杷亭の株を叔父に渡さず、父からそっくり相続したというのだ。

 一貴さんと力を合わせれば叔父を抑えられると思ったという。

 私がロサンゼルスに向かう日。行き違いに美加がここに来た日も、枇杷亭に関する話をしたそうだ。

『でも、一貴さんと噂になっているんじゃダメだわ』

 母はそう言って『ごめんなさい陽菜』とうつむいた。

『知らないとはいえ、傷つけてしまったわね』

『おかあさん、私は大丈夫だよ』

 むしろ私が謝りたいくらいだった。勝手に誤解をして避けてしまったんだもの。

 ごめんなさい、おかあさん。

 おかあさんはなにも悪くない。もしかしたら美加だって。

 私も本当はわかっているの。

 離婚しなきゃいけない理由は私にある。自分が怖いからだ。

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