契約結婚のススメ
 え? 今なんて。

「その代わり、結婚するからには普通の夫婦になろう。形だけとか、そういうのじゃなく」

「ど、どうして?」

「なに言ってるんだ。結婚してほしいんだろう?」

 彼は面白そうに笑う。

「それはそうですけど、てっきり断られるとばかり」

「まぁ、俺も誰かと結婚しないといけない。跡取りもほしいしな」

 あ、跡取り?
 思わず余計な想像をして、カッと熱が込み上げる。あわわ、どうしよう。

「ところで、今日の見合い相手は俺だって知らなかったのか?」

「は、はい。義母に写真を見ない方が第一印象で決められるだろうって」

「ふぅん、そうか」

 それから早速、結婚の時期や新居の話になったけど、私はなんだか信じられなくて、ずっと夢の中にいるようだった。

「じゃ、よろしくな。これから俺たちは婚約者。恋人同士だ」

 一貴さんはにっこりと笑って右手を差し出す。

「よろしくお願いします……」

 握手した彼の手はちょっとひんやりしたけれど、とても力強かった。
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