御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
絶対に離れたくない。それに、お腹には黎の赤ちゃんがいて、ふたりを引き離すなんて考えられない。
だから母に連れ戻されるわけにはいかない。
その一心で菫は走り続けたのだ。
「黎君……」
以前なら母にひと言命じられただけですぐに従っていたのに、さっきは必死で抵抗した。
絶対に、黎と離れたくない。
これまでも黎を心から愛していると確信していたが、自覚していた以上の想いの強さに菫は自分でも驚いていた。
おまけに黎への愛情と同じだけの強さで赤ちゃんを大切に思っていることもわかった。
「ごめんね」
菫は椅子に深く腰かけると、お腹に手を当てささやきかける。
菫が黎と離れたくないように、赤ちゃんも黎と離れたくないはずだ。
まだ胎動すら感じない小さな赤ちゃんだとしても、不思議と赤ちゃんのその思いが伝わってくる。
「ごめんね」
菫はもう一度、お腹に向かってささやいた。
黎の立場を気にかけ赤ちゃんの存在を伝えられずにいる、そんな自分の弱さが情けない。
赤ちゃんにとっては唯一の父であり黎にとっても大切な我が子なのに、菫の身勝手な判断でふたりの未来を決めるのは許されない。