御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
突然聞こえた声に顔を向けると、黎の背後に笹原が立っている。

そういえば、電話をかけると席を立ってからかなりの時間が経っている。

自身の気持ちを落ち着かせるのに精一杯で彼女のことを忘れていた。

「私が航さんの部署に電話をして紅尾さんに連絡してもらったんです」

笹原は得意げにそう言って笑っている。

「な、なんでそんなことを」

菫は目を丸くし呆然とする。

まさか黎に連絡がいくとはびっくりだ。

「そんなこともなにも、何度も隣で黎君黎君って言われたら誰でもそうしますよ」

「そ、それは・・・・・・たしかに言ってたような気がするけど」

母から逃げ出し走っているとき、何度か心の中でつぶやいた気がしていたが、まさか口に出していたとは恥ずかしすぎる。

「本当にありがとう。たまたま今日こっちに来ていたからよかったよ」

黎は笹原に礼を述べ、立ち上がる。

「また今度改めてお礼はさせてもらうよ」

「お気遣いなく。紅尾さんが顔色を変えて駆けつけるレアな姿を見られただけで十分です。それより」

笹原はそれまでの明るい表情を消し、ちらりと菫の様子をうかがった。

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