御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「……おだてて手に入るならいくらでもおだてるし、大切にする」

不意にそれまでとは違う固い声でそう言って、黎は菫の顔を見つめた。

「あ、あの? どうかした? 今日の黎君、おかしいよ」

黎は不安げに瞳を揺らす菫をしばらく見つめた後、ふと表情を引きしめ口を開いた。

「そろそろ婚約者が帰ってくる頃だよな」

「婚約者……?」
 
一瞬、黎が突然なにを言い出したのか理解できず、菫は口ごもる。

「ドイツ赴任の任期は長くても二年って言ってただろ」

「あっ」

続く黎の言葉に菫は目を見開き、顔をひきつらせる。

「こ、婚約者。うん。そ、そうなの。そろそろ帰国すると思うんだけど、まだよくわからなくて」

菫は視線を泳がせ曖昧に笑って見せる。

まさかこの場でその話が持ち出されるとは思わず、あっという間に全身から熱が引いていく。

「たしか相手が帰国したら結婚準備に入るんだよな」

感情が読めない黎の落ち着きはらった声に、菫は「た、多分」とぎこちなく答える。

つい口ごもってしまうのは、やましい思いを抱えているからだ。

菫は黎の顔を見ていられずうつむくと、一年半前にした見合いを思い返した。
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