御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
勝手に家政学部の受験をしていた菫への怒りが収まらなかったのだ。

子どもの頃から優しくされた記憶が少ない菫だったが、そのとき母が見せた鬼のような形相は異様で、まるで菫を憎んでいるように思えた。

高校三年生の受験期は、ただでさえ不安定な時期だというのに、菫にとっては家族との関係が大きく揺らいだつらい時期でもあった。




「お見合いをまた断ったら、今度こそ母は完全に私を切り捨てると思う。そうなったら私。帰る場所がなくなっちゃって……本当のひとりぼっちになるかも」
 
菫は胸にあふれる思いをこらえきれず、つい情けない思いを口にした。

「安心しろ。俺は菫をひとりにはしない」

黎は菫が何度も口ごもり言いよどんでも、辛抱強く菫の話に耳を傾けていた。

今も菫の身体を抱きしめ、励ますように背中をそっと撫でている。

その温かさに後押しされて、菫は幼少期から抱えてきた苦しみを吐き出せたのだ。

「私、いつまでもあきらめが悪いよね」

地元を離れると決めたときに、家族との関係はあきらめたつもりでいた。

中でも母とは生涯縁が切れることも覚悟した、はずなのに。

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