御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「お互い様だ。俺が菫の嘘に気付ける距離で見守っていればよかったんだよ」

「そんなこと……」

「それに、この二年を無駄にしたのがかなり悔しい。俺の気持ちひとつで菫とこうして抱き合えていたはずなのに」

黎は大きく息をつき、過去の自分を悔んでいる。

この二年と言われ、黎への想いを振り切れなかった日々の切なさを思い出し、菫は目を伏せる。

苦しい中で過ごした二年はとても長かった。

そして同じ想いを黎も抱えていたのだ、申し訳なさに胸が痛む。

結婚が決まったと嘘をついたのは菫だ。

黎が婚約中の菫を気遣い距離を詰められなかったのは仕方がない。

だから菫と両親の関係がここまでこじれていると気付かなかったのは当然なのだ。

そして菫も黎が別れた恋人を今も想い続けていると思いこんでいた。

菫と黎の気持ちが寄り添うきっかけならいくつもあったはずなのに、相手のことを考えすぎて遠慮し、結果的にはふたりとも思うようにならない恋に苦しんでいたのだ。

「本当だね。すごく悔しい」

「ん? どうした」

菫は黎の胸に額をぐりぐりと押し当て甘える仕草を見せる。

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