御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「二年分。本当ならこうして黎君と抱き合えていたかもしれない二年分」

黎から顔を逸らし、菫は黎がさっき口にした言葉を真似てつぶやいた。

「抱き合えていた二年分?」

「うん。もったいなかった二年を取り戻したい」

照れくささを隠しきれずたどたどしい声音で話す菫を黎はしばし見おろす。

やがて目尻を下げると菫の頭を粗い手つきで撫で始めた。

「へえ。どうやって取り戻すんだ? 抱き合えていたはずの二年分、結構長いぞ」

顔を上げようとしない菫に愛しげな眼差しを向け、黎はわずかに上ずった声で問いかける。

「どうやってって言われても」

からかい混じりの黎の言葉に、菫は口ごもる。

「えっと、た、たとえば。あ、会いたいときに会ったり、電話で話したり」

菫は黎の身体に寄り添い、指折り数える。

「あ、一緒においしいものを食べたい」

「うん、それで?」

次第に明るく滑らかに話す菫を見つめ、黎の表情も和らいでいく。

やがて脱力した身体を黎に委ねる菫の髪を束にして持ち上げ、指先でもてあそぶ。

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