御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
ブランケットなしでも寒くないのは、ほどよく効いている暖房のせいだけではないだろう。

抱きしめ合う黎の素肌によって、温かさ以上に幸せを与えられているからだ。

菫は黎の身体にバランスよくついている綺麗な筋肉を指先でなぞりながら、全身が脱力していくのを感じた。

こうして抱き合っているだけで不安もなにもかもが消えていく。

ついさっき夢にうなされていたのが嘘のようだ。

菫の全身から余分な力が抜けて落ち着いたと感じた黎は、菫の顎に指をかけてお互いの顔を合わせた。

「優しくする。だからこの二年間を取り戻させて」

熱のこもった声が菫の耳元に届き、全身がぶるりと震えた。

不安で震えているのではなく、黎に愛される期待で震えているのだ。

この二年、黎が菫を欲しいと思っていたように、菫も黎が欲しかった。

今お互いの素肌が触れ合うだけで極上の幸せに包まれている。

この幸せこそ、菫が欲しかったものだ。

そう気付いた菫は一瞬のためらいのあと、自分から黎にキスをした。

自信がなくぎこちない、そしてかすめるだけのキス。

菫は唇を重ねてすぐに身を離し、黎の胸に顔を埋めた。

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