月の砂漠でプロポーズ
「だからぁ~……、私は関係ないですって。しゃちょ、林と並んで写真なんか撮ったことなんかありませんし、血縁関係なんてありませんてば!」

 私は警察にお呼ばれしている。
 逮捕じゃない、重要参考人としてだと言われた。
 けれど、不名誉な要件で呼ばれたことに変わりはない。

「こういう場合はね、関係ないことを証明するほうが難しいんですよ」

 私を調べている刑事さん――なのかな――はわりと丁寧だ。

 淡々と名前と年齢、住所を確認された。
 嘘を言ってないことはパスポートで証明済み。

 ちなみに。
『かつ丼取ってくれよ、旦那―』
『郷里のお袋さんが泣いているゾ』
 という会話はなかった。
 頼めば出前取ってくれるらしいんだけど、自前なんだって。
 余談だけれども。

 しかし、あの男。
 バナナの皮を置いて、転ばしてやりたい。まあ、私は掃除のプロだからそんなことはしないけれど。

「私はHCC(ハヤシ・クリンリネス・カンパニー)の従業員なだけですってば」
「会社自体がペーパーカンパニーだったらしくてね」

 なんですと?

「だって、ホームページもありますよ、パンフレットだって!」

 従業員が三十人弱で、人事も経理もマネジメントも全て社長が、いや林がやっているのだという説明ではあった。

「んー……。届出はありますし、高畑さんが雇われていたから”紙”ではないんですけれどね。従業員は貴女一人なんですよ」

 なんと。

「え、じゃあ他の人達は」
「林の自宅を令状とって家宅捜査しましたが、貴女の履歴書と顧客リストしか出てこなかったんです」
 元々従業員は私一人。
 そしてホームページも、パンフレットもおそらく林の手作りじゃないかと言われた。
 
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