たすけて!田中くん
「おい」
ソファの奥に座っている男が私をじっと見つめた。
「お前が喜久本凪沙か」
低くて威圧感のある喋り方。でも何故だかその声にどこか安心感を抱いた。
派手な紅色の髪に切れ長の目は冷めているように見える。この中にいる誰よりも彼は近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
ああ、この人……
〝敦士〟だ。
そう確信すると、私は彼の目の前に立つ。
そして偉そうに座っているその男を、見下ろすように腕を組む。
「はじめまして。あなたが、〝私の彼氏〟?」
嫌味を含んで言い放つと、赤い髪の男は口角を釣り上げた。
「会いたかったよ。〝俺の彼女〟」
ほんの少し会話を交わしただけだけれど、目の前の男の感情が一切見えない。
なにを考えているのか読み取れないし、話し方に抑揚もなかった。
わかりきっていたけれど、会ってみて危険なやつだと実感してしまう。