たすけて!田中くん
あんまり関わる気はなかったけれど、それ以来何故かよく話しかけられるようになった。
彼女——喜久本凪沙は話してみると自由奔放で、早弁したりカーディガン表裏反対だったり、不器用だし、できないことが多くて世話のかかるやつだった。
呆れることも多いけど喜久本といるときは、いつのまにか笑ってる自分がいて、憂うつだった高校生活が楽しいと思えるようになっていた。
「田中くんって兄弟いるの?」
他愛のない会話をしていると喜久本からされた質問にひやりとした。
もしかしてバレたんじゃないかと思ったけれど、田中なんてたくさんいる。
「いるけど、喜久本はいるの?」
「姉と弟がいるよ! 全然似てないけど。姉は女子力高くて可愛いし、弟も女子力高くて可愛い!」
「どっちも女子力高くて可愛いのにお前はどうした」
「私にもわからん」
でも、俺のとこもそこまで似てないかもしれない。
兄は今ではかなり有名になっている不良。周囲からは恐れられているけれど、家では不器用で掃除も料理もなんにもできない。
それに力加減が苦手らしく、すぐに物を破壊するから困る。
荒んだ兄がなにをやらかすかわからないから、同じ高校に入ったけれど、あくまで見張りたいだけなので弟だということは知られたくない。
できれば平穏な生活を送りたい。