たすけて!田中くん
***


家に帰っても基本的に一人だ。

父は仕事で滅多に顔を合わさないし、兄も夜遅くまで帰ってこない。

母さんの遺影が置いてある部屋のドアは閉じたまま、ずっと開けていない。きっと親父たちも、ここには足を踏み入れていないだろう。


せめて高校と大学はちゃんと行って、就職をしないと母さんに顔向けできない。

俺らが中学のとき、深夜まで遊んで喧嘩をしていたのを母さんはずっと心配していた。

遊ぶのもいいけど、怪我はしないで。

将来のためにも学校にはちゃんと通って。

あまり怒らないし口煩くはなかったけれど、それだけは何度も言われていた。



だけどそのときは、面倒でしかなくて本当の意味でその言葉を聞いていなかった。適当にはいはいと流していた。


ごめん、こんなんで。

もっと早くからちゃんとしてれば俺は母さんに余計な心配をかけずに済んだかもしれないのに。


もう母さんはいなくなってしまったけれど、せめて学校だけでもちゃんと卒業したい。

それが俺の目標だったため、学校生活を楽しもうなんてまったく思っていなかった。

兄が問題を起こさず、俺はただ静かに過ごしていられたらいい。



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