たすけて!田中くん


「……で、どうするの」

田中くんが読んでいた本を閉じて、横目で私を見る。
本の表紙に書いてある小難しいタイトルに眉を寄せた。私の読めない漢字が羅列されている。


「珍しいね。田中くんが興味持つなんて。もしかして、私が別の男にとられちゃうことで自分の本当の気持ちに気づいたってやつ? いやだ、それなら早く」

「違う」

「はぁ……ノリ悪い田中くん」

まあ、そんなはずないってわかってはいたけれど、田中くんはのってすらくれない。そして視線が冷ややかだ。


「自分の置かれた立場わかってないでしょ」

「わかってるよ。相手はこの辺牛耳ってる不良だってことくらい」

「そこの一員の彼女になれって言われたんでしょ」

そう。そうなのだ。昨日失礼なオレンジの髪の男に声をかけられて、勝手に敦士とかいう男の彼女になれと命令された。

断ったけど、翌朝来た時には<喜久本 凪沙が敦士の女になった>という話がもう学校中に広まっていて、否定したところで既に止められない状況になっている。



どうやら私は顔も知らない男の彼女になってしまったらしい。



敦士とやらはこの高校で有名人のようだ。
高校で友達が田中くんひとりしかいない私には、噂話は今までほとんど耳に届かなかったので全く知らない相手。



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